雨花のおはなし

公開日:2025.06.08
nijisuzume

連載:シチシチムジクイ 島の暮らし
西表島在住のクラシライター:nijisuzumeさん(Instagram)より、自然の移り変わりや植物のサイクルに合わせたものづくり〈シチシチムジクイ〉をお届けします。

 沖縄は今年、5月の半ばを過ぎてもなかなか梅雨入りせず、雨のない晴れた暑い日が続いていました。島の人たちは顔を合わせると、一体いつになったら梅雨入りするんだろうね、このままだとユッカヌヒーのハーリーの日が来てしまうね (「ハーリーの鐘が鳴ると梅雨が明ける」との言い伝えがあるように、例年ユッカヌヒーを過ぎると梅雨が終わるとされる) などと、梅雨入りの遅さを話題にしていました。

 そんなよく晴れた暑い日のこと、集落の中の道を歩いていると、どこからともなくジャスミンのような甘く良い香りが漂ってきました。どこからだろうと香りを辿りながら見上げると、生垣の木に小さく可憐な白い花がたくさん咲いているのに気がつきました。

 この小さな白い花はミカン科ゲッキツ属の植物であるゲッキツ(月橘)の花で、ジャスミンのような甘い香りがすることから、別名シルクジャスミンとも呼ばれます。大木にはならず低木であること、花の香りが良いこと、剪定しやすいこと、葉が細かく生い茂り目隠しになることから、島では屋敷の周りの生垣に用いられることが多く、我が家でもゲッキツを生垣として家の周囲に植えています。

     「この花が咲くと雨が降るんだよ」

 そういえばこのゲッキツの花のことを、村のおばあは雨花(アメバナ)と呼んでいて、この花が咲くと数日のうちに雨が降るのだと教えてもらったことがありました。
 とは言えその日は本当によく晴れた良い天気で、雨が降る気配など全く感じられません。でもいつもこの花が咲くと雨が降るのが常なので、本当に雨になるのだろうか、こんなに天気がいいのに、と半分は信じつつも半分は信じられないような気持ちでいました。

 翌日、朝方は晴れていたのですが、少しずつ雲がやってきて曇りだし、昼前には雨が降り出しました。
 そしてこの日、平年より12日遅く、九州地方より遅れて、ようやく気象庁が沖縄の梅雨入りを宣言しました。

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 雨が降るだなんて信じられないくらいの快晴の中であっても、未来に雨が降ることを予知し白く可憐な花を咲かせていた雨花。
 雨が降ることがわかるだなんて、未来がわかるだなんて、雨花に秘められた力は偉大だと思うと同時に、私は密かに雨花は雨によって受粉しているのじゃないかと思っています。受粉という命を繋げるための大切な機会を雨によって成し遂げるために、雨花という植物は全神経を集中して、気温だったり気圧だったり湿度だったりを感じとって、そのタイミングに合わせて花を咲かせる準備をしているのではないでしょうか。

 雨を、天気を、未来を予測できる雨花という植物の不思議さ。そして、雨花が咲くと雨が降るという、長年の暮らしの中で得られた人の知恵。
 未来のことなど分かるわけがないと思ってしまうけれど、雨花のように全てを研ぎ澄ませたら、もしかしたらほんの少しなら分かるのかもしれないですね。
 天気も植物も自然もそして人も、全部繋がっているのですから。

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