フクギのおはなし

2024.09.08
nijisuzume

連載:シチシチムジクイ 島の暮らし
西表島在住のクラシライター:nijisuzumeさんより、自然の移り変わりや植物のサイクルに合わせたものづくり〈シチシチムジクイ〉をお届けします。

 真っ直ぐに空に向かって木の幹が伸び、その根も真っ直ぐ地中深く伸び、台風の時の暴風にも耐え、屋敷を守ってくれるということで、沖縄では昔から防風林として屋敷の周囲に植えられてきたフクギ(福木)の木。私の暮らす集落一帯も、このフクギに覆われていて、家々を台風から守るとともに、夏場の強い太陽の光を遮り木陰をつくってくれています。


 またフクギは昔から染色の材料としても重宝されており、樹皮を煮出して黄色の染液を取り出し、染色に使われてきました。
 特に八重山の島々の祭では、弥勒(ミルク)様という神様が身につける着物に、福木染めが施された黄色の衣装が用いられており、私が暮らしている村の節祭(シチ)という祭でも、八重山上布を福木染めした着物に、木綿を福木染めした帯、といった黄色の衣装を身に付けてミルク様が登場します。

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 ただこのフクギの木は、成長するにつれて、木の幹も太く、背も高く、放っておくとかなりの巨木になってしまいます。あまりに大きくなり過ぎてしまうと、倒木の危険性も出てきてしまい、かえって危ないため、時折剪定を加えたりしながら、上手に木と付き合っていく必要があります。


 というわけで、我が家にそびえ立つ大きなフクギの木も、まだ小さなフクギの木も、時折剪定を加えるのですが、剪定した枝や葉をそのまま土に還してしまうのは忍びないので、その剪定した枝や葉で、福木染めをしてみることにしました。
 樹皮ではなく、フクギの小枝や葉を用いるため、濃い染液は取り出しにくいだろうと予想して、煮出しやすいように枝も葉っぱも細かく細かく刻みます。そしてしっかりと抽出するために、圧力鍋を使用して、煮出して、煮詰めて、水を加えて、また煮詰めて‥を繰り返し、しっかりとフクギの木の精を染液として取り出した後、絹の布を染めてみました。後で水で流すことを考えると、媒染液にはあまり科学的な薬品を使いたくないので、媒染は石灰のみ。幾度か繰り返して染めた後、媒染液に浸し、水洗いして乾かすと‥

 黄色というよりは、光り輝く黄金色!なんとも美しい黄金色の布に染め上がりました。


 染め上がったこの美しい布を、ただしまっておくだけではもったいない、何かの形に生かしたいと思っていたところ、閃いたのがピンクッションの布にするということでした。


 そこで、先日行われたクラシコサエルの「ヤエヤマヤシのカゴ編みワークショップ」へこちらの福木染めで染めた黄金色の絹布も持参して、ヤエヤマヤシでカゴを編んだ後、好きな布を選んでピンクッションを作るという段階で、こちらのフクギ染めの布も選んでもらえるようにしました。
 すると、半分近くの方がこちらの福木染めの布を選んでくれて、こちらの布を使って、可愛らしいピンクッションを仕上げてくれたのでした。

 フクギの木の生命の一部、そしてそこから木の精をいただく以上、染めて終わり、ではなくて、それを日々の暮らしの中で生かせる形にできたら。

「ゴミになるものは作らない」という島の大先輩である紅露工房の石垣昭子さんの言葉を胸に、まだまだ その域には到底辿り着けないけれども、いつでも作ったその先の世界にまで思いを馳せながら、ものづくりをしたいと思う私です。

 

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