苧麻のおはなし

2023.07.23
nijisuzume

連載:シチシチムジクイ 島の暮らし
西表島在住のクラシライター:nijisuzumeさんより、自然の移り変わりや植物のサイクルに合わせたものづくり〈シチシチムジクイ〉をお届けします。

 7月に入ると 、島は本格的な台風シーズンとなります。赤道近くで発生する台風は、西表島を含む八重山諸島へは、かなりの大きさと威力を保ったまま、上陸することが多いのです。

 大きな台風が直撃すると、木が倒れ、果樹が落ち、停電し、家屋に被害が出ることも。

 なので 台風が近づくとなると、島人(しまんちゅ)は みな、木の雨戸を固定したり、飛ばされそうなものを屋内にしまったり、吹き飛ばされないよう縛ったり、落ちてしまう前に果樹を収穫したり、停電に備えて灯りを準備したり、厳重に台風対策をします。

 我が家も台風対策の際には、畑の作物をあらかじめ収穫しておきます。先日も台風発生との予報を受け、だいぶ背が高くなっていた苧麻を、台風で倒れる前に収穫しました。

  苧麻というのは イラクサ科の多年草で、八重山では八重山上布を織るために、大切に栽培されてきた植物です。また、麻の仲間の苧麻からは、とても丈夫で強い繊維がとれます。

 台風の時であっても、植物を収穫する時には、必ず手を合わせます。決して無駄にはしません と。植物の生命に語りかけるように。約束をするように。

 そうして収穫した苧麻の茎の部分から、やさしく丁寧に苧麻の表皮を剥ぎます。


 そして剥いだ表皮を 発酵させ、繊維を取り出しやすくするために、水に浸しておきます。


 一晩浸して柔らかくなった苧麻を、固いものでしごいて 繊維を取り出します。


 採れた苧麻の繊維は、細紐を綯って 箒やクバ扇の持ち手の紐にしたり、小包を包む紐にしたり、何かを束ねるのに用いたりします。


 また島では、苧麻には魔除けの力があるとされています。昔、同じ村の中ででしたけれども、新しい家に引っ越すことになった時、近所のおばあから「新しい家で暮らし始める前に、小さな子どもの手足には、苧麻を巻いてやりなさい。自然に取れるまで。」と教わりました。
 なんでも苧麻にはマジムン(良くないもの)から身を守ってくれる力があるのだとか。引越しという、新たな環境での暮らしの変化による目に見えないストレスに対し、子どもの手足に苧麻を巻いてやり、これで大丈夫だよと子どもの心に寄り添うという意味でも、あたたかな良き風習だなと思います。

 そんな、暮らしの中で身近な苧麻という植物なのですが、実は今までずっと苧麻の葉についてだけは、うまく生かすことができず、そのまま苧麻畑の土に還していました。

 
 そんな中ある方に、苧麻の葉で草木染めができること、苧麻の草木染めによって、木綿の布が鮮やかな黄色に染まったこと、を教えてもらいました。

 さっそく刈り取った苧麻の葉を煮出し、じっくりと濃い目に煮出した苧麻の葉の染液に、私の場合は麻のストールを浸し、染めを施すと‥

 ‥不思議。

 彼女の木綿の布は鮮やかな黄色に染まっていたのに、私の麻のストールは、アースピンク色に染まりました。


 きっと どんな素材を染めるのか、どんな風に染めるのかによっても染まり方は異なるのでしょうけれど、人にも色々な人がいるように、同じ苧麻という植物も個性は色々で、日当たりや土壌の性質や、生育環境や収穫の時期によって、植物そのものの身体に流れる色も、異なるのでしょうね。

   植物の中からひき離すようにして
     液体となった色彩は
植物の命
ー白のままでは生きられないー 
       志村ふくみ著  

 植物の中からひき離すようにして、液体となった色彩は植物の命‥
 この色を出したい、こんな色に染めたい、ではなくて、その植物が内包する生命の色こそが全て。
 この形を出したい、こんなふうに仕上げたい、ではなくて、その植物の持つクセや形などの、特性や個性が全て。

 日々植物の生命をいただいて、暮らしのまわりの生活道具を製作している身として、いつでもその生命を頂いているということを、忘れないようにしたいものです。

 



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