八重山の箒のおはなし

2024.07.14
nijisuzume

連載:シチシチムジクイ 島の暮らし
西表島在住のクラシライター:nijisuzumeさんより、自然の移り変わりや植物のサイクルに合わせたものづくり〈シチシチムジクイ〉をお届けします。

 今はもういないのだけれど、私の暮らす村に何でも知っていて、何でもできて、何でも教えてくれる、心から尊敬できるおばあがいました。そのおばあのことを本当に大好きで、用事もないのに しょっちゅう遊びに行っていたものでした。

 海のことも、山のことも、村のことも、行事ごとも、祭のことも、踊りのことも、昔のことも、子育てのことも、島料理のことも、何でも知っていたおばあ。

 知らない名前の魚や貝を手に、知らない名前の草や実を手に、分からないことがあると、私だけでなく、うちの子どもたちもみんな、いつでも おばあに聞きに行っていました。

 娘が小さい頃、いつも窓の外の同じ方を指差して「おばけ てくてく いるー(お化けが外を歩いているの意味)」と泣いてしまうことを相談した時にも、「小さい頃は そういうものが視えることがあるからねえ。そんなのいないでしょ!なんて言わずに、そうだねーと聞いてあげなさい。そして魔除けとして枕元にハサミを置いておくといいよ」と、目に見えないものとの付き合い方についてまでも、教えてくれた おばあでした。


 そんなおばあから、束ねた上の部分を編んで繊維が抜けないようにするという稲藁箒を習ったのはもう10年以上も前のこと。あの当時は我が家も含め、村に暮らすほとんどの人が自分のところの田んぼで米を作り、ユイマールで助け合って田植えや稲刈り(当然のごとく手植え・手刈りでした)をしていたので、稲藁が当たり前に身近にありました。おばあは、稲藁の束からミゴを取り出し、手早く束ねて稲藁の箒を作りサッサッサッとあたりを掃き掃除するという手際の良さでした。


 おばあから習った箒は、箒の上の部分を編み込んで、繊維の1本1本が抜け落ちにくいようにするという作り方。その作り方を応用して、月桃や糸芭蕉の繊維などでも箒づくりをしています。(上の写真は糸芭蕉の繊維で作った箒)


 島では厄介者の雑草扱いのセイバンモロコシ。こちらの素材でも同じように箒作りができないものだろうかと試してみると、稲藁よりは少々硬くて編みにくいという側面はあるものの、箒としては稲藁よりしっかりとした良い箒に仕上がりました。


 尊敬する大好きな おばあから受け継いだ この箒の作り方を今も守りつつ、その受け継いだ手技を、自分だけで独り占めするのではなく、伝え・繋いでいくこともしていこうと思っています。

【ワークショップ】八重山伝統の箒づくりと島のお茶を愉しむ会


 人と人との豊かな繋がりや、田んぼや川が守られる暮らしが紡がれてゆきますように。同じ未来を夢見る人へ、植物の声に寄り添って 手技を学ぶ人へ、伝え・繋ぎたいと思っています。

自分の身の回りのものを
自分の身の回りの自然素材から
自分で拵えることができる暮らし

 大量生産 大量消費とは真逆の、そんな暮らしが広がっていって、人々の心も暮らしも緩やかに満たされていきますように と願っています。

 

7月の読みもの

7月の食に関すること(レシピ付き記事も)、7月の過ごし方のアイデアや8月の準備などの記事をお楽しみください♪

月ごとの読みものまとめはこちら

 



\ PICK UP ITEM /

おすすめ商品