アダンのおはなし

2023.10.22
nijisuzume

連載:シチシチムジクイ 島の暮らし
西表島在住のクラシライター:nijisuzumeさんより、自然の移り変わりや植物のサイクルに合わせたものづくり〈シチシチムジクイ〉をお届けします。

 島の至る所に生えているアダンは、鋭い棘のある長い葉に覆われています。アダンの実は熟すとオレンジ色になり、パイナップルそっくりに見えますが、アダンの実がアダンの木にぶら下がるように実るのに対し、パイナップルの実は真っ直ぐな茎の上の方に実るため、実り方は全然違います。けれどもそんなアダンの実のよく熟したひとかけらをポロリと外し、根元の方を口に含むとほんのりと甘いのです。



 私の暮らす村では、例年10月頃に (旧暦で決められるため、毎年日取りは異なりますが)、国の無形文化遺産に指定されている、節(シチ)という祭が執り行われます。



 その節祭の時、女性は白いカカンを履き、濃紺のスディナを身に纏い、カンプーに結った髪に銀のジーファーを差し、アダンの葉で編んで作ったアダンパ草履を履きます。



 節祭で履くためのアダンパ草履は、アダンの葉から作ります。今年は久しぶりに、内地から娘が帰ってきて節祭に参加することになったため、アダンパ草履は、自分の分と娘の分との二足が必要です。



 手袋を二重にはめて、手に棘が刺さらないように気をつけながら、アダンの葉を採取します。こんなに鋭い棘に覆われているのは、アダンが自身の身を守るためです。その葉を頂くわけですから、痛いなどと言っているわけにはいきません。「節祭で履く草履を作りたいので、必要なだけ刈らせてください。決して無駄にはしません。」そう心で語りかけ、お願いしながら、丁寧に採取していきます。



 採取したアダンの葉は、カッターで棘を落として細いテープ状にし、大きな鍋でグツグツと煮ます。湯掻いたアダンの葉は乾かして、丸まらないように鞣し、鞣したテープ状のアダンの葉は、使いやすいように小分けにして巻いておきます。同時に月桃の繊維で、草履の芯の部分の縄にするための太めの縄を綯っておきます。



 テープ状のアダンの葉と月桃の太縄の準備ができたら、いよいよ編み始めます。編み方自体はワラ草履とほぼ同じなのですが、薄いテープ状のアダンの葉を、重ねるように編んでゆくため、ワラ草履のようにはいかず、少しずつ少しずつ形になっていくので、完成までにはかなりの時間がかかります。



 節祭に間に合うように、娘と自分の分のアダンパ草履を編み上げ、手作りのアダンパ草履を履いて、節祭のアンガー踊りを奉納することができ、今年も無事にユークイ(世乞い)を迎えることができました。
 島の植物であるアダンの葉を用いて草履を作り、作ったその草履を履いて、祭りに参加する。暮らしの中に手仕事が当たり前のようにあり、当たり前のように手技が継承される、そんな島の暮らしは、なんて豊かな暮らしなのだろう、と心から誇りに思います。



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